人は何歳のときに「この夢を諦めるべきか」と考えるのだろうか。
「夢を持て」「夢を追え」と言われる一方で、現実の壁にぶつかったとき、あるいは幸せを見失ったとき、私たちはふと立ち止まり、こう自問する。
「このまま夢を追い続けていいのか?」
「もう現実を見た方がいいのではないか?」
この問いは、単なる迷いではなく、人生をどう構造化し、何を優先し、何を捨てるかという非常に根源的な選択(selection)の問題でもある。
この記事では、
- 心理学の理論
- 幸福度の人生曲線
- 現実的な社会資源としてのお金
- “死ぬ前に公開すること”が示す価値観
を組み合わせながら、「夢を諦めるべきかどうか」を論理的・実践的に考えていく。
夢と現実――西野亮廣が教える「夢と金」の本質
まず最初に、『夢と金』という本から重要なメッセージを引用したい。
キングコングの西野亮廣は言う。
「夢」と「お金」は相反関係にない。
「お金」が尽きると「夢」は尽きる。これが真実だ。
この言葉は、単なるビジネス書のノウハウではない。
夢そのものを社会的現実の中に置き、希望と現実は切り離せない という冷静な認識を促している。
多くの人が夢を諦める瞬間は、才能や熱意が枯れるからではなく、
「現実的な資源(時間、お金、健康、人間関係)が枯渇する」瞬間だ。
夢と現実を二項対立で考えるのではなく、
どの段階でどの程度のリソースをどう配分するかという実装レベルの選択として考える必要がある。
人生の幸福はU字を描く――夢の追求と幸福の関係
幸福度と年齢には、世界レベルでU字型の関係が確認されている。
これを「幸福のU字理論」と呼ぶ。
- 若い頃:幸福度は比較的高い
- 中年期:幸福度は最も低い
- 老年期:幸福度は再び上昇する
このU字カーブは、世界中の多くの国で検証されており、
幸福度の最低点はだいたい 40〜50歳前後 とされる。
若いうちは希望があり、可能性だけで満たされる。しかし中年になると、
- 夢が現実の制約にぶつかる
- 仕事・家庭・責任が増える
- 自由時間が減る
といった現実が幸福感を押し下げる。
しかし、人生の後半では、
- 自己選択が成熟し
- 不要な期待が減り
- 大切な価値が明確になる
ことで幸福感が回復する。
このU字理論が示すことは、「夢を手放したら幸福はなくなる」という単純な話ではない。
夢と幸福は時間と状況によって関係が変化するのだ。
SOC理論――夢を捨てることは放棄ではない戦略である
心理学で「SOC理論(選択・最適化・補償)」というものがある。これは人生の中で何かを失い、何かを得るプロセスを説明する戦略だ。
三つの要素を簡単に整理すると、
- 選択(Selection)
何を目標にするかを決める - 最適化(Optimization)
その目標達成につながる努力を最大化する - 補償(Compensation)
望む結果が得られない場合、他の方法でバランスを取る
これを夢の文脈に当てはめると、以下のように考えられる。
● 夢を選択する段階
夢そのものに固執するのではなく、
どの夢を追うべきなのかを選び直す。
人生には時間という制約がある以上、すべてを追い続けることはできない。
選択とは、「どれを追うか」を見極める勇気だ。
● 夢を最適化する段階
夢を持ちながら現実的なリソース配分を考える。
- 資金的な余裕を持つための仕事をする
- 体力や健康を維持する
- 必要なスキルを習得する
夢を見るだけではなく、夢を達成するための仕組みを整える方策を講じることが重要だ。
● 夢を補償する段階
夢そのものが叶わない可能性を前提に、
その代替価値を見つけるのも成熟した選択だ。
たとえば、目標とする職業に就けなくても、
同じ価値を別の形で表現できる道は必ずある。
この「補償」という考え方は、
夢を諦める=敗北ではなく、戦略的なリフレーミングなのだ。
夢をかなえるゾウ「死ぬ前に公開すること」が示す価値観
【人間が死に際に後悔すること】
1.本当にやりたいことをやらなかったこと
2.健康を大切にしなかったこと
3.仕事ばかりしていたこと
4.会いたい人に会いに行かなかったこと
5.学ぶべきことを学ばなかったこと
6.人を許さなかったこと
7.人の意見に耳を貸さなかったこと
8.人に感謝の言葉を伝えられなかったこと
9.死の準備をしておかなかったこと
10.生きた証を残さなかったこと
「夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神」水野敬也 著、文庫本p.72-73より引用
これが意味するのは、
「夢を追い続けられなかったこと自体を後悔する人が多い」という現実だ。
しかし同時に、
「人生の幸福や満足」と「夢の達成」は完全一致しないとも言える。
幸福度U字理論が示すように、人生の中で幸福が下がる時期があること、
SOC理論が示すように夢の追求には戦略が必要なことは、
夢をいつ手放すか、いつ方向転換するかは人生戦略の核心なのだ。
夢を諦めるべき瞬間はいつか?
では結論として、
「夢を諦めるべき瞬間」とは何か?
✔ 1:夢が自分の幸せを奪っているとき
幸福度U字理論で言えば、
人生の“谷”は誰にでも訪れる。
もし夢を追うために健康・人間関係・生活基盤が崩れているなら、
夢ではなく生活全体のバランスを修正すべきだ。
✔ 2:戦略として選択し直す時
SOC理論で言えば、
夢そのものを手放すのではなく、目標の再選択が必要な時期がある。
若い頃の理想をそのまま持ち続けることは尊いが、
現実的なリソースの制約の中では最適な戦略とは限らない。
✔ 3:夢が他者への価値提供につながらない時
西野亮廣が言うように、
夢は単なる自己満足ではなく、他者への価値提供の文脈で成立する。
夢が自己中心的になりすぎていた場合、それを修正するのは賢明だ。
俺の結論
夢は諦めるものではなく「最適化」するもの
夢を諦めることは、
単に諦めるのではなく、人生全体の戦略を最適化することだ。
- 夢そのものを保持しながら別の現実的目標に再構築する
- 幸福度U字理論が示す人生の浮き沈みを受け入れる
- SOC理論の戦略を使いこなす
- 価値提供の視点で夢を捉え直す
こうして夢との関係を設計し直すことこそ、
本当の意味で「夢を諦める」という行為だ。
夢を諦めるべきではない。
ただし、そのまま追い続けることが正解ではない瞬間があるだけだ。
そして人生の終盤に後悔しないためには、
夢と現実の両方をバランスよく最適化することが最も重要だ。

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